昨年亡くなった作曲家ジョージ・クラムの解釈者として随一のピアニスト、清水美子による新作がリリースされました。
ジョージ・クラム(1929 - 2022)
◎天界の力学(マクロコスモス第4巻、1979/2012)
◎ツァイトガイスト(1988)
◎異世界の響き(タブロー第2集、2005)
2018年にリリースされた第1作(《マクロコスモス》第1巻~第3巻)が非常に素晴らしく、当時レコ芸でレヴューしたほどでしたが、今回はそれを上回るような美しさと自然さにあふれたアルバムです。
オリジナルはすべて2人のピアニスト(作品によってはもう一人の奏者が必要)のための作品。それを清水が一人で多重録音して作り上げた一枚で、当然音色やフレージングには一体感があり、録音も遠近感と光沢のある見事なものです。
クラムと言えば、ピアノの内部奏法を多用することによって、独特の音世界が展開されるのが特徴のひとつですが、演奏へのアプローチもえてして「技法」や「新奇さ」に焦点を当てがちです。でも清水の演奏にはそんな視点はなく、あくまでも音楽そのものの必要性のために特殊奏法を使っているということがとてもよくわかる、稀有なものとなっています(随所にメシアンかと思われるような深い美しさと透明感まで聴こえてきます)。
編成の特殊さ、演奏の至難さのために決して演奏機会が多いとは言えず、しかも本質を突いた演奏も少ないこれらの作品の演奏史に大きな一歩を築く名盤の登場です。(2023.11.27)
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